「タックス・ヘイブン」はトロピカルな島ばかりじゃないよ
こんにちはこんばんは、器用貧乏のケイリです。
今年の春、リークされた”パナマ文書”によって、タックス・ヘイブン問題が世間的に注目を集めました。
ですが、タックス・ヘイブンなるものは庶民の生活には直接関係してきませんので、何のことやら分かりません。
しかし、回り回ってわたしたちの税負担に影響を及ぼす問題ですので、「俺らパンピーからじゃなく金持ちからもっと税金取れやー!」という主張に結びつき、どこかの国のお偉いさんまで辞任する事態となりました。
ただ、今になってもやはり「タックス・ヘイブン」がどういうものか、ぼんやりとしたイメージしか湧いてきません。
タックス・ヘイブンの場所ってパナマやケイマン諸島みたいなトロピカルな島ばかり?
映画じゃスイスに秘密口座があるとかよく言われてるけど?
実際にタックス・ヘイブンって何なんでしょうか。
というわけで、今回勉強させてもらったのはこちらの本です。
この本には、「タックス・ヘイブンとは何ぞや」だけの留まらず、タックス・ヘイブンが税制に与える影響や、過去に起こったタックス・ヘイブンにまつわる事件など、これ1冊でタックス・ヘイブンについて十分に学べる内容となっております。
といっても、この本の充実した内容全部を取り上げるわけにはいかないので、今回は「タックス・ヘイブン」とは何か(どこか)、という初歩的なことだけに焦点を当てたいと思います。
「タックス・ヘイブン」の言葉の意義
ウィキペディアでは、タックス・ヘイブンは以下のように説明されています。
タックス・ヘイブンとは、一定の課税が著しく軽減、ないしは完全に免除される国や地域のことである。低課税地域、租税回避地とも呼ばれる。
また、『タックス・ヘイブン──逃げていく税金』では、
タックス・ヘイブンとは一般に、「税金がない国や地域」、あるいは「税金がほとんどない国や地域」をさす。
タックス・ヘイブンの多くの場合、国だけでなく、旧植民地や英王室の属領のような地域も含む。
と述べられています。
つまり、国というくくりだけでなく、地域というくくり方で認識されているところもあるわけです。
「タックス・ヘイブン」なのはどこ?
『タックス・ヘイブン──逃げていく税金』では、タックス・ヘイブンとして有名ないくつかの地域や国が挙げられています。
1.カリブ海にある島のグループ
ケイマン諸島、バハマ、ブリティッシュ・バージン・アイランド(BVI)など
2.ブリテン島近辺のグループ
ジャージー、ガーンジー、マン島の王室属領
3.アジア
4.先進国内の一地域
ロンドンのシティ(ロンドン市内の一区画)、アメリカのデラウェア州など
5.国
スイス、ルクセンブルク、ベルギー、オーストリアなど
なお、 1.2.3.はだいたい英国がらみの地域だそうです。
とにかくタックス・ヘイブンは世界中に存在するので、たとえパナマ文書が明らかになったとしても、それはタックス・ヘイブンに関わる事象のほんの一片でしかありません。
「タックス・ヘイブン」の判断基準
どの国・地域がタックス・ヘイブンに該当するかの判断基準は、国際的に定まっているわけではありません。
OECD(経済協力開発機構)租税委員会は、1998年に「有害な税の競争」報告書を公表していますが、その中で挙げられたタックス・ヘイブンの判断基準は以下の4つでした。
- まったく税を課さないか、名目的な税を課すのみであること
- 情報交換を妨害する法制があること
- 透明性が欠如していること
- 企業などの実質的な活動が行われていることを要求しないこと
なお、租税委員会はこの報告書につづき、2000年にプログレス・レポートというものを公表しました。
このレポートには上記の4つの基準にもとづいて、35の国と地域がタックス・ヘイブンとしてリストアップされました。
ただし、『タックス・ヘイブン──逃げていく税金』いわく、
35のリストの中には、バミューダ、ケイマン、キプロス、マルタ、モーリシャス、サン・マリノが入っていないなど、不可解な点もある。
とのことです。
また、2009年4月、タックス・ヘイブン退治にあたり、租税関係のグローバル・フォーラムは、「国際的に合意された税の基準の実施についてOECDグローバル・フォーラムにより調査された国・地域に関する進捗報告書」を公表しました。
この報告書では、以下の分類で国・地域がリストアップされています。
1.国際的に合意された税の基準を実施している国・地域(40箇所)
2.国際的に合意された税の基準にコミットしているが、実施が不十分な国・地域
a.タックス・ヘイブン(30箇所)
b.その他の金融センター(8箇所)
3.国際的に合意された税の基準にコミットしていない国・地域
ただし、グローバル・フォーラムが定めたタックス・ヘイブンの判断基準は、プログレス・レポートとは違っています。
プログレス・レポートでのタックス・ヘイブンの判断基準は前述のとおり
- まったく税を課さないか、名目的な税を課すのみであること
- 情報交換を妨害する法制があること
- 透明性が欠如していること
- 企業などの実質的な活動が行われていることを要求しないこと
でしたが、グローバル・フォーラムの報告書では 2.と 3.のみとなっており、税負担が低いかどうかは判断基準とはされていません。
また一方で、グローバル・フォーラムのリストの2.b.のように、先進国の金融センターに関わるタックス・ヘイブンの問題が認識されていることが分かります。
『タックス・ヘイブン──逃げていく税金』では、
タックス・ヘイブンの全容は、先進国の金融センターも含めた多重構造を全体として眺めることによって初めて理解できるのである。
としています。
と、まあ、「タックス・ヘイブン」ってどこ?っていうことだけに軽く注目して書きました。
これ以上書くにはわたしの脳みそが足りませんので、ここまでにしておきます。
しかし、『タックス・ヘイブン──逃げていく税金』によると、タックス・ヘイブンの本質的な問題は、
1.高額所得者や大企業による脱税・租税回避
2.マネー・ロンダリング、テロ資金への関与
3.巨額投棄マネーによる世界経済の大規模な破壊
にありますので、そのあたりも詳しく解説されているこの本は、タックス・ヘイブンの問題を知るにはよい1冊だと思います。